うるまのはて
宿は、屋我地島(やがじじま)に予約していた。島とは言っても沖縄本土から橋でつながっているので、橋を渡りおえるとすぐに屋我地島の民宿に着いた。
ここの宿に決めたのは、なんと言っても目の前が砂浜だからだ。本当に砂浜だ。どのくらい砂浜かというと、1階の海に面した窓の横のドアを開けると、もう砂の上だ。ドラえもんのどこでもドアのように、いつでもビーチに出れる。朝、起きたたら目覚めの砂浜、さざ波を聞きながら月夜に砂浜、食事後に腹ごなしに砂浜、フッとしたら砂浜と、とにかく砂浜だ。にくい作りである。
おかげさまで車の移動中よくなかった二人の機嫌がなおった。
夕食は専用の広間で他のお客さんといっしょにいただく。大勢の宴会のように楽しく、話に花が咲く。おかみさんは、三線を弾き島唄を聴かせてくれるおもてなし。母のために誕生日の唄をお願いすると、快く歌ってくれた。
お客さんたちは、宿のご主人、おかみさんと仲がよく、いったいどれだけの期間、ここに泊まっているのだろうか?と、思った。
みんな明日も早いらしく、夕げの後には、体格のいい親方ふうの人とぼくたち、親子だけとなった。親方はもう、宿の住民化しており、突然やって来た訪問者であるぼくたちに親しげに話かけてきた。
「私たちは、ここでトンネルを掘ってるんですよ。さっきの連中は部下たちなんです。しばらく、ここでお世話になってます」
「トンネルって、あのトンネルですか?」
「そうです。時には、爆弾を仕掛けて穴をあけます」
「それは大変なお仕事をされてるのですね!掘るのに爆弾を使うなんて、とても危険ですよね!?」
「たまに胃が痛くなりますよ。そんなときは事務所に置いてある植物の鉢の手入れをまめにします。(親方、暇なんじゃないか)と、思われけど、私が鉢をいじるのは気分を落ち着かせるためなんですよ」
と、親方は教えてはくれた。同じ宿に泊まるにしても、みんな観光客ではないのだ。
そして親方は耳寄りな情報を教えてくれた。
「この島の隣に古利島(こうりじま)という島があります。島どうしは橋でつながっていて、休日なんかにはこの橋を渡りに行くんですよ。橋から見る海の色はなんとも言えない碧さで、その上を自転車で走ると、まるで海の上を飛んでいるようですよ」
と、少し興奮気味に話をしてくれた。
「まだ、できたばっかりだから、人もほとんど来ないですよ」
とも。
朝の出発、昨夜の職人さんたちは、もう、仕事に行ってしまっていた。レンタカーに乗り込もうとすると、おかみさんに呼びとめられた。手には母の誕生日に花束が。最後まで粋な計らいをしていただいた。
古利島大橋は、すぐに現れた。碧とも緑ともいえぬ、うすいエメラルドグリーンに近い色の海の真ん中を空中に向かって真新しい橋が弧を描く虹のようにかかっている。空も爽快に晴れわたっている。水平線は、青い空と海に中央で2分割されてる。
車の両サイドの窓を全開にし、ぼくらは対向車の来ない一本道を走り抜けた。