亀寿司

「来年、また来るよ」

寿司屋で先客が店の人に別れを告げた。

 

小笠原丸は、今日入港して午後には出港してしまう。そして次の東京発の便はというと、台風のため出発日は未定となった。つまり先客は、今日来て今日帰ってしまうのだ。おそらく今日帰らなければ仕事にでも支障をきたすのだろう。遠い小笠原まで来たからには、せっかくなので亀の寿司を堪能しに来たのだろう。

 

亀の肉が、ここ小笠原では食べられている。主に寿司や煮つけになる。寿司は辛子醬油に付けて食べる。癖がないあっさり味で魚ではない肉の歯応えがある。煮つけは湯でよくあく抜きをしないとくせがある。島の食文化であるが捕獲数は制限されているているそうだ。

 

 

午後から海水欲に出かけた。白い砂浜、透き通るような海は南国そのものだ。久しぶりの海につかり戯れた。

 

全身黒ずくめの長袖姿の女性が砂浜を行ったり来たりしながら、木の生えた根本をほじくっていた。なんだろう?目を凝らして見ていると手元に白い丸い物が見えた。亀の卵だ。女性は亀の保護をしている職員で卵を施設に持ち帰り孵化させているようだ。

 

大村海岸は、民宿から目と鼻の先だった。ここは入江になっており、左端の二見港には小笠原丸と母島へ向かう母島丸が停泊している。まずは、母島丸が母島に出発した。台風のため、明日は戻ってこない。

 

そして島で建造物のように一番大きい小笠原丸が汽笛をならす。黒い煙を吐きながら港を後にした。

 

神妙な気持ちで小笠原丸に手を振った。次はいつ来るのか。島に取り残されたようだ。