首里城脱出

またやってくれた。ブッとんでいる人だということを改めて思い出させてくれた。そう、それは母のこと!

昨夜は国際通りをブラつき、今日は首里城見学だ。母とともに朱色の城柱や場内に飾られた展示物を一般観光客の一員として見歩いた。

なるほど、ここの丘から那覇の街並みをこの城の王は眺めていたのだな。

一通り見たあとで、午後から車を予約していたレンタカー会社に連絡をした。そして首里城内の人が混雑する土産物屋の前でトイレに行く母と別れた。

だが、しばらくしても母が戻って来ない。次から次へと土産物屋を物色した観光客は入れ代わり立ち代わりしていくが、ぼくだけがそこに取り残された。

母はどこに?

荷物はぼくが全部預かっている。母は携帯すら持っていない。しかたない捜索するしかない。さっそく2日目にして、これだ。

まったく、やんなっちゃう、もう!(怒)

あれこれ歩き回った。それほど遠くへは行ってないはずだ。城内から外へ出たかもしれない?もう出るしかない。場外の坂道を上ったり下りたり繰り返して母が現れるのを願った。

何回目かの往復の末にやっと、やっこさんがやって来た。お互い安心したのと同時に怒りがこみ上げた。

もうそれからは、レンタカーに乗っても運転席と助手席でケンカだった。さらに那覇市内の渋滞は拍車をかけ、なにかにつけてはケンカになった。

「海岸線を走って海を見せろ!」

と、子供のようにわめく母。こっちは車が動かなくていやになってる。海岸線に近いルート58号線も遠く感じられる。

昔、首里城で権力をふるい、大勢の家来を従えさせた偉い王様も、まさか、その城が観光地となって一般市民に続々と足を踏み入れられようとは夢にも思うまい。

それからそう遠くない未来、ぼくは母とケンカをしながら、渋滞の中、レンタカー車内に閉じ込められた。