帰路
沖縄本島も一周し、帰る途中に初日にお世話になった(宿泊した)ゲストハウスの1階で営む沖縄料理屋で昼食をいただいた。
昼の閉店間ぎわ、常連らしき2人組の壮年男性とぼくら親子だけとなった。
まだ見たことのないヤシガニについて尋ねてみた。
「ヤシガニはどんな味がするのですか?」
と、
「いや、食べたことないなぁ。ここでなくもっと西の与那国島に行かないと」
以外であった。すると、もう1人の男性が
「あっ、そういえば・・・。フィリピン産のものを食べたことがあるよ」
「おいしいですか?」
「おいしい」
と、答えたが男性はよく味を憶えていないようだった。
確かに今回の旅、毒蛇のハブでさえ見ないのだから、ましてや野生のヤシガニなんてお目にかかれるわけがない。沖縄=ハブ ではあるが、沖縄=ヤシガニ ではなく、与那国島=ヤシガニ のようだ。映像でしか見たことのないヤシガニに想いをよせた。いつかは、生体を目の当たりにして食べてやろうと。ぼくの思いは、まだ行ったことのない西の果て与那国島へ飛んだ。
少し余裕をこいたようだ。空港近くのレンタカー店に車を返すのに道を迷ってしまった。
もうすぐチェックイン時刻が終わってしまう。旅の最後に飛行機に乗り遅れたオチがついたか、と、空港までとばすタクシーの中で思いながら焦る。
空港に着くや否や早くチェックインカウンターに急いだ。
母は子供のように走っていった。
「お母さん、慌てなくても大丈夫ですよ。飛行機は遅れてますから」
と、地上係員のお姉さんに笑顔で対応された。
やがて機体は、地上を離れた。空上、今回の旅を回想する。いつものことだ。母も初めて訪れた沖縄に満足したようだ。母に親孝行できてよかった。母にいい思い出を作ってあげられた。いくつもの思い出が次々と頭によみがえってくる。たいへんよい旅であった。
がっ、
思いでにひたるよりも機内の退屈がより大きくなったとき、新たなる企みが生まれだした。
・石垣の海には、たくさんのきれいな熱帯魚がいたよなっ。
・友人Hはしばらく石垣島にいるんだよなっ。
・彼が都内に出てきたとき、少しぼくのアパートに置いてやったよなっ。
密かな企みを胸にひめたぼくは、一路、羽田に向かうのだった。(ふふふっ)