タイムリミット

朝6時に起床。宿で知り合った日本人の女性旅行者とともにボーダー(国境)へ。昨夜、彼女は、ストライキが4日間も続くし、不安なので早く出国すると言ってきた。

 

エルサレムのアラブ人地区街には、1台もバスは見あたらない。ユダヤ人地区街のバスステーションへと足を運ぶが、バスは、国境手前のジェリコまでしか行かない。

 

バスに乗ったはよかったのだが、ジェリコとは反対方向に行ってしまった。

 

バスの運手に尋ねると、どうやら聞き違えたらしい。どうしたらいいのか?運転手はここで降りて、ジェリコ行きを待てと言った。

 

降りてはみたものの、太陽の照り付ける乾燥地帯。車は、たまに通るだけ。ヒッチハイクしても、ほとんどの車は手を横に振って行ってしまう。どうにもならない。

 

今は、もう10時になった。祭日前の今日は、国境は11時で閉まってしまう。これでは、明日(23日)のヨルダンの首都アンマン発のフライトには間に合わないではないか!必死にあせった。

 

手をふれども、ふれども車はスピードをあげて通り過ぎていくだけ。気持ちはあせるだけ。もう絶望に近かった。

 

航空券もパー。あと2、3日はイスラエルに、そしてさらにアンマンにも2、3日は滞在しなければならないかもしれない。そう思ったら、あきらめがついて少しは楽になった。

 

しかし、手だけは必死に振って止まってくれる車を待つ。国境に近づくにつれイスラエル軍人の警護する姿が目立ってきた。彼らに、どうすればいいのか、尋ねたが「バスを待て」とだけ。

 

軍人と話していると、やっと目当てのバスが止まった。とりあえずジェリコまで。ここでも国境へのタクシーを捕まえるのは難しかった。

 

10時半、とうにあきらめはついていた。前方には、政府軍関係の建物がぽつんとひとつあり、車が数台とまっているだけ。

 

そこに自家用車を運転したアラブ系の男がやって来た。

 

「タクシーを待っているのだけど、ストライキでまったく来ない。もしよかったら、国境まで乗っけて行ってくれないだろうか」

 

ダメもとで話す。

 

「わかった。5分待ってくれ。そしたら、いっしょにヨルダンに行こう」

 

神の救いのような言葉が返ってきた。

 

信じられない。もうあきらめていたのに。九死に一生を得る感覚。アラブ人の親切さに感動した。旅のあいだ、いつもひとなつっこくて親切な人々であったのをしみじみ思い出した。

 

彼は、政府軍の建物で用事をすませ、ぼくたちをタクシー乗り場まで連れて行ってくれた。そして今にも出ようとしたタクシーを止めてくれた。

 

しかし、彼は「これは高い。やめて車に戻れ」の一言。

 

そして、近くのほかのタクシー乗り場にひとり車で探しに行ってしまった。本当に彼が戻ってくるのか心配しながら二人で待つ。

 

すると、タクシーが一台近づいて来た。よく見ると運転手の助手席には、さっきの彼が座っていた。どうやら自分の車ではなく、タクシーで行くつもりだったようだ。

 

そこから国境までは、10分とかからなかった。イミグレーションオフィス(入出国管理事務所)に着いた時には、11時近かった。イスラエルからヨルダンに入る。やっと、ほっとした。

 

数日ぶりにアンマンに帰ると、やけにアラブ人たちのほりの深い顔がなつかしく感じられた。