深夜特急乗車中
インド プリーのサンタナロッジは、快適だった。朝の目覚めとともにクンナが
「ババ、チャイ」(旅人を悟りを開いた聖者のように敬称でババと呼んでくれた)
と、熱いミルクティーを部屋まで運んで来てくれた。
日本の活字を目にしないと、飢えてきて無性に日本語で何かを読みたくなる。ここの宿にも旅人が持ち込んだ多くの本が棚に並べらていた。ハードカバーの重い本をよくインドまで持ってきたもんだなと、独特な表紙の本を手に取る。
クラシカルな電車のイラストの表紙。鉄道の小説かな?
旅行記か、なかなか面白い。陸路でアジアを横断し、ヨーロッパを目指す旅だ。くつろぎ床に寝ころびながら読んだ。まさに今の自分が実行している、そのものの旅だった。飽きることなく、楽しく読み終えた。
でも、どこか本にのめり込めない自分がいた。生意気にも、現実に味わっている自分の旅の面白さの方が勝っていると思ってしまった。
現地を自分の目で見る、触れる、そして感じる。これがまさに生で体験する醍醐味なのだ。そして、それは誰かに聞いた話ではなく、真っ向から対峙した世界だ。
だから音楽でも録音したものだけを聴くのでなく、ライブ会場へとファンは足を運ぶ。あるミュージシャンは、(ライブは生き物で、何かが降りてくる)と、ラジオ番組で言っていた。
後に本は、旅のバイブルとも呼ばれ、有名になった。テレビ番組にもなった。影響を受けて旅に出た人も多いかと思う。どれだけの人たちが深夜特急の乗車券を買っただろう。