ベトナム深夜特急
ハノイ駅で列車に乗り込む直前に横なぐりの雨に打たれた。ハノイ出発を見送るスコールだ。これからダナンに向かう。
移動の時間は、いつもと違う考えにふける。車窓から流れる景色に、自分は改めて旅人だと実感する。これから新たに旅が・・・。
と、書きたかった。
でも、現実は子連れである。寝台車コンパートメントの3段ベットが4才児に刺激を与えるのも無理はない。コンパートメント内は、他の人はいなく、娘のおしゃべりは日本のアパートに住んでいたときと、ちっとも変わらなかった。寝台でお昼寝してくれるかと思ったが、逆に気持ちを高揚させてしまったようだ。
回遊魚が泳がないと生きていけないように、娘は寝る寸前までおしゃべりし続ける子だ。
家でもいつもこうなのか、と、妻に聞くと「1日中おしゃべりして、歌って、動いている。静かなのは、テレビを見てるか、お絵かきをしているときくらい」と、言われた。
娘と1日中いっしょにいる妻の忍耐強さに感心する。
ビニール袋に穀物らしきものを入れた荷物をいくつも車内に運び込むおばちゃんが入ってきた。お互いに笑顔でしか会話できない。知らない人が来ても娘のおしゃべりは止まらない
日本にいようとベトナムにいようと寝台列車にいようと場所が変わっても娘にとっては同じこと。
夜9時近く6人部屋の寝台は、荷物と人でいっぱいになった。みんな寝台のシーツにくるまっているので、ぼくは室内灯をおとした。
列車のレールを刻む音と娘のおしゃべりは続いた。
知らない土地に行って言葉も分からない、幼稚園の友達とも遊べない娘。ただ単に親が旅するから連れていかれる。娘にとっては、冒険の冒険だろう。すまないと思う。そして旅は始まったばかりでまだ続く。
停車していた列車から鳴り響く汽笛が、ベトナムにいることを教えてくれた。
こんなもの食べてます
列車の食事