ファースト・トリップ

当日、右も左もよくわからないまま、成田空港で出国手続きをする。パスポートに出国のスタンプが押された。

 

飛行機搭乗のタラップを昇ると、パキスタン航空のスカーフを頭にかぶった民族衣装姿の客室乗務員に指示された座席に座った。まだ昼間なのに機内の室内灯は、暗めに調光されていた。ほとんど空席である。日本人らしき人が一人もいないようだ。以上の条件がぼくを不安にさせる。

 

シートベルトをしめる。飛び立つまで待ったが、定刻になっても機体は止まったままだ。出発時間なのに。そのうち英語のアナウンスとともに飛行機は加速した。

 

「しまった!」

 

と、思った。果たして無事に日本に帰ってこられるのか?!不安も加速とともに増した。

 

そして、先ほどの客室乗務員が何やら動き出した。(なんだろう)と、見守っていると座席裏のテーブルを無言で開き、トレーを置いていった。これが機内食というものか。

 

鉄のフォークとナイフ、中央のメインの器にはぶ厚いステーキが。厳禁なもので、これを目にしたとたんにさっきまでの不安を忘れてしまった。(あとにも先にも機内食でステーキが出たのは、この時だけで、今はどこの飛行機会社も運賃を安くするために機内食の質はおとされてしまったようだ)

 

飛行機はまず、最初の経由地 北京に降りた。空港の滑走路からスピードを徐々におとして、停止した。機内の窓からは制服姿の人民解放軍(?)が立っているのが見える。

 

機内で待っていると、騒がしい人たちがドヤドヤ乗って来た。みんな勝手に座ろうとする。なかには竹でできた背より高い釣り竿をもっている人もいる。客室乗務員が指定席に席に着かせようと、英語で声を張り上げた。でも、全然、言葉が通じなかった。

 

せっかくステーキで上がっていた気持ちが、また、不安になった。

 

客室乗務員は指定の席に着かせるのをあきらめた。

 

やがてみんな、なんにもなかったかのように、黙って座り前を見ていた。そしてからまもなくして飛行機は北京を後にした。